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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

ハチミツは姉のやさしさ

黒 妙

 

 6歳くらいの頃だった。
 母は、父親の不倫や別居、借金などで私を育てる余裕がなく、祖父母の元で暮らしていたが、その時は祖母が病気で一時的に母の家で暮らしていた。

 風邪をひき、熱も咳も出てひどく苦しく眠れない夜だった。
 母は私を引きずり起こし、「明日も仕事があるのに。さっさと静かにしろ」と薬を飲めと出した。
 しかし、腫れた喉に薬の粒は大きく感じ、いつも持っていたタオルに吐き出してしまった。
 「飲むことも出来ないのか!」
 眠るのを害された母はいつも以上に怒っていた。
 私は委縮し、薬を飲みこもうとするも吐き出してしまっている。
 怒鳴り、癇癪を起す母。私は何も普通に出来ない事に哀しく母に申し訳なく思いながら、何度も薬を飲もうとした。
 次第に薬の周りの糖衣が剥げて、苦い粒になった。
 余計にのどが細く絞まる。えづく。吐き気も出てくる。
 母が睨んでいる。飲まなきゃ。飲まなきゃ。私はいつも誰かを困らせている。
 泣きながら飲もうと何度も薬を口に含んでは、えずいて吐き出している。唾液と胃液でぐちゃぐちゃになるタオル。

 背中で姉が部屋から出てくるのを感じた。
 姉は4つ上だ。普段は一緒に暮らしていないので、話すことはなかった。台所で水でも飲んでいるのだろうか。
 「ほら。○○子まで起きて来ちゃったじゃないか。お前がさっさと飲まないからだよ」
 母がさらに促す。
 それでも飲めない。
 「ねえ」
 姉が後ろに来ていた。
 「これで飲んでみなよ」
 見ると、カレースプーンにハチミツがこぼれない程度にたっぷりと入っている。
 普段、家でハチミツを食べることはなかった。勝手に台所を開けるのは、はしたない事だと言われていた。
 姉は近くに来て、私が吐き出した薬の粒をスプーンのハチミツに沈めた。
 「ん」
 私に差し出す。
 スプーンの柄を持って大きく口を開けてスプーンをくわえてハチミツと薬を飲み込んだ。
 薬はするりと喉の奥に流れていった。
 後味は甘く何かの花の香りがした。
 「飲めた」
 私が言うと、姉は「ん」と短く応えて部屋に戻っていった。
 薬の効果とハチミツの相乗効果だろう。喉のイガイガがなくなった。

 ヨダレまみれのタオルは洗濯籠に入れて、代わりにならないけれど一応別のタオルを抱いた。口に残ったハチミツの甘さが心地よく、薬と泣き疲れですぐに眠ってしまった。

 風邪はすぐに治ったと記憶している。

 その後、祖父母の元に戻り、姉との会話もほとんどなかったが、優しい記憶として残っている。

 

(完)

 

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